見極めガイド:最初の3ヶ月で「その人に合う教え方」を見つける
#1. なぜ最初の3ヶ月で見極めるのか
同じカリキュラムを与えても、伸び方は人によって違う。その多くは能力の差ではなく、情報の受け取り方・詰まったときの反応・指摘の受け止め方の違いによる。
この違いを早くつかめれば、教え方を変えられる。つかまないまま3ヶ月が過ぎると、次が起きる。
| つかまなかった場合 | 結果 |
|---|---|
| 教え方が全員一律のまま | 合わない人だけが伸びず、「本人の問題」として片付けられる |
| 困りごとのサインを見逃す | 一人で抱えやすい人が、誰にも気づかれないまま行き詰まる |
| コーチングの入り方を誤る | まだ準備が整っていない段階で答えを求め、動けなくしてしまう |
見極めは、評価のためではなく、教え方を変えるために行う。 ここを間違えないこと。
#2. 見極めの5原則
この5つを守れない場合、見極めはやらないほうがよい。ラベル貼りは、育成にとって害になる。
| # | 原則 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 合否や評価に使わない | 傾向は対話と教え方の調整に使う。人事評価の根拠にしない |
| 2 | 決めつけない | 3ヶ月で見えるのは傾向であり、その人の全部ではない。仮説として扱う |
| 3 | 事実で記録する | 「おとなしい」ではなく「〇月〇日、詰まってから3時間報告がなかった」と書く |
| 4 | 本人に開示する | 3ヶ月目に本人へ伝える。裏で持ち続けない |
| 5 | 環境要因を先に確認する | 質問が出ないのは、本人の性格ではなく聞きにくい空気のせいかもしれない |
原則5が最も見落とされる。新しく入った人の行動の多くは、こちらの接し方が形づくっている。 見極める前に、自分の接し方を点検すること。
#3. 見極めの5観点
観察するのは、次の5点に絞る。多く見ようとすると、結局どれも見えない。
#観点① 情報の受け取り方
| 見るポイント | 現れ方 |
|---|---|
| 何で理解するか | 口頭説明/手順書/実演/自分でやってみる、のどれで一番入るか |
| メモの取り方 | 取るか。取ったものを見返すか。構造化されているか |
| 一度に入る量 | 3つ伝えると3つ目が抜けるか。複数を保持できるか |
| 質問のタイミング | その場で聞くか。持ち帰って整理してから聞くか |
確認方法:同じことを違う方法で2回教え、どちらの後に手が動いたかを見る。
#観点② 詰まったときの反応
最も重要な観点。 ここが見えていないと、困りごとに早く気づけない。
| 見るポイント | 現れ方 |
|---|---|
| 詰まってから声を上げるまでの時間 | 5分か、30分か、半日か |
| 詰まったことを言えるか | 「大丈夫です」と言うか、そのまま出せるか |
| 詰まったときの態度 | 焦る/固まる/飛ばして先へ進む/別のことを始める |
| 助けを求める相手 | 教育担当か、同僚か、誰にも言わないか |
確認方法:あえて答えを渡さず、少しだけ難しい業務を与えて観察する。ただし顧客・金銭・データに影響しない範囲に限る。
#観点③ 指摘の受け止め方(フィードバック耐性)
| 見るポイント | 現れ方 |
|---|---|
| 指摘された直後の反応 | 受け止める/先に理由を説明する/黙り込む/強く落ち込む |
| 指摘後の行動 | 次から直る/同じことを繰り返す/萎縮して手が止まる |
| 指摘の質による差 | 手順の指摘は平気だが、考え方の指摘に弱い、等 |
| 人前と個別での差 | 人前で指摘されると態度が変わるか |
確認方法:1ヶ月目に、軽微な指摘を意識的に1回行い、その後1週間の行動を見る。
#観点④ 時間と段取り
| 見るポイント | 現れ方 |
|---|---|
| 見積もりの精度 | 楽観的すぎる/悲観的すぎる/おおむね合う |
| 着手の速さ | すぐ始める/準備しすぎて始まらない/締切直前に始める |
| 完成度の基準 | 8割で出す/100%まで抱える/どこで完成か判断できない |
| 並行処理 | 複数を並行できる/1つずつでないと崩れる |
確認方法:期限つきの業務を3つ与え、どう順序づけたかを聞く。
#観点⑤ 人との関わり方
| 見るポイント | 現れ方 |
|---|---|
| 発言量 | 会議・雑談で自分から話すか |
| 確認の取り方 | 事前に確認するか/事後報告になるか |
| 影響の意識 | 自分の遅れが誰に響くかを気にするか |
| 距離感 | 近すぎる/遠すぎる/状況で変えられる |
#4. 4つの傾向と、教え方の調整
観点②(詰まったときの反応)と観点③(指摘の受け止め方)を軸に、教え方を切り替えるための4区分を置く。
これは人格の分類ではない。
「いまこの人には、どんな関わり方が合っているか」を決めるための道具である。
どれが優れている・劣っているという順位はない。同じ人でも、環境や時期によって変わる。
詰まりを早く出せる
↑
│
【承認先行タイプ】 │ 【自走タイプ】
出せるが、指摘に敏感 │ 出せる。指摘も受け止める
│
────────────┼────────────→ 指摘を受け止めやすい
│
【遠慮タイプ】 │ 【自己完結タイプ】
出しにくく、指摘にも敏感 │ 出さないが、自分で解決する
│
↓
詰まりを一人で抱えやすい
| 傾向 | 見え方 | 気をつけたいこと | 教え方の調整 |
|---|---|---|---|
| 自走タイプ | 詰まりを早く出し、指摘も受け止める | 手を離しすぎると孤立しやすい | 標準カリキュラムでよい。早めに任せる範囲を広げる |
| 承認先行タイプ | 報告は出るが、指摘に敏感 | 萎縮して手が止まりやすい | 指摘の前に必ず「できている点」を具体的に挙げる。 個別の場で伝える |
| 自己完結タイプ | 抱えるが、自力で解決してしまう | 解決の経緯が共有されず、次の人に残らない | 「解決したか」ではなく「どう解決したか」を毎回聞く。30分ルールを丁寧に運用する |
| 遠慮タイプ | 詰まりを出しにくく、指摘にも敏感 | 表面上は順調に見えるため、気づくのが遅れやすい | 詰まりの報告を仕組みに組み込む。日次で1つ挙げてもらう形にする |
遠慮タイプは、その人に問題があるのではない。 「聞いてよいのか分からない」「迷惑をかけたくない」という気遣いが背景にあることがほとんどである。3ヶ月目になって初めて困りごとが見えてくることが多いため、1ヶ月目のうちに、本人が言い出さなくても済む形(日次で1件挙げる枠)を用意しておく。
この傾向が出ているときは、まず教育担当側の接し方を点検すること(本文書 7章)。聞きにくい空気は、教える側がつくっていることが多い。
#4-1. どのタイプでも変えないこと
タイプに合わせて調整するのは、伝え方・頻度・確認の仕方だけである。次は誰に対しても変えない。
- 到達すべき水準(Lv.1〜Lv.3)
- 守るべきルール(勤怠・報告・行動規範)
- 期間の上限(
05_フォロワーシップと教育範囲の基準.md7-1章)
基準を人によって下げない。 下げると、本人が「自分は期待されていない」と気づく。伝え方は変えてよいが、ゴールは同じである。
#5. 3ヶ月の見極めスケジュール
| 時期 | やること | 出すもの |
|---|---|---|
| 1ヶ月目:観察 | 5観点をひたすら事実で記録する。判断しない | 事実メモ(週1回、5分でよい) |
| 2ヶ月目:仮説 | 記録から傾向の仮説を立て、教え方を1つ変えて試す | 仮説と、変えた教え方 |
| 3ヶ月目:検証と共有 | 仮説が当たっていたかを検証し、本人に伝える | 見極めシート/本人との対話 |
記録様式は templates/06_見極め観察シート.md を使う。
#5-1. 1ヶ月目:判断せず記録するだけ
この月に結論を出さない。 入社直後は誰でも緊張しており、普段のクセが出ていない。
記録は事実だけを書く。
| ❌ 書かないこと(評価・印象) | ✅ 書くこと(観察できた事実) |
|---|---|
| おとなしい | 3日間、自分から質問が0件 |
| 飲み込みが早い | 手順を1回見せたら、次から独力でできた |
| 指摘に弱い | 手順の誤りを指摘した翌日、質問件数が0になった |
| 段取りが悪い | 3件の締切のうち、一番遠いものから着手した |
#5-2. 2ヶ月目:仮説を立てて、教え方を1つ変える
記録が溜まったら、仮説を立てる。そして教え方を1つだけ変えて試す。 複数を同時に変えると、何が効いたか分からなくなる。
| 仮説の例 | 変えてみること | 効果の確認 |
|---|---|---|
| 口頭より手順書のほうが入る | 説明を減らし、先に手順書を渡す | 質問件数・やり直し回数が減るか |
| 指摘に敏感(承認先行タイプ) | 指摘の前に、できている点を2つ挙げる | 翌週の報告量が戻るか |
| 一人で抱えやすい(遠慮・自己完結タイプ) | 日次で「詰まったこと1件」を挙げる枠を用意する | 実際に出てくるか |
| 見積もりが楽観的 | 見積もりを本人に出させ、実績と比較して見せる | 3回目以降に精度が上がるか |
#5-3. 3ヶ月目:本人に伝える
卒業判定(10_ティーチング_カリキュラム.md 8章)と同じ場で、見極め結果を本人に伝える。
伝え方の原則
| 原則 | 具体的に |
|---|---|
| 事実から入る | 「〇月にこういう場面がありました」と、まず記録を示す |
| 決めつけない | 「〜という傾向があるように見えますが、どう思いますか」と問いにする |
| 本人の自覚とすり合わせる | 本人が自覚していれば話は早い。していなければ、そこが次のテーマ |
| 良し悪しにしない | 「抱え込むのは悪い」ではなく「抱え込むと、この場面でこう困る」と影響で語る |
| 次の期間の約束にする | 「では、コーチング期間はここを一緒に見ていきましょう」と接続する |
伝え方の例:「3ヶ月見ていて、詰まってから声を上げるまでが少し長いように感じました。5月の〇〇の件では3時間ほど止まっていましたね。ご自身では、どう感じていますか」
本人が否定した場合は、押し切らない。 「では、次の3ヶ月で一緒に確認しましょう」と保留にする。仮説であって、事実認定ではない。
#6. 見極めた内容の使い方
| 使ってよい | 使ってはいけない |
|---|---|
| 教え方・伝え方の調整 | 人事評価・処遇の根拠 |
| コーチング段階のテーマ設定 | 本人のいないところでの人物評 |
| 業務の割り当ての工夫 | 「あの人はこういうタイプだから」という決めつけ |
| 本人との対話のきっかけ | 他の社員への共有(本人の同意なく) |
#6-1. 記録の扱い
- 見極めシートは、教育担当と経営者のみが閲覧する
- 本人には3ヶ月目に開示する(隠して持たない)
- コーチング卒業(6ヶ月目)をもって、記録としての役割は終える
- 以後は、本人との対話の中で更新していく
#7. 教育担当が自分を点検するチェックリスト
見極めの前に、自分の側を確認する。ここが崩れていると、観察結果はすべて歪む。
- 質問しやすい態度で接しているか(忙しそうにしていないか)
- 質問されたとき、手を止めて聞いているか
- 「そんなことも分からないのか」という反応をしていないか
- 教えた記録を残しているか(教えていないことを求めていないか)
- 良い点を言葉にして伝えているか(指摘だけになっていないか)
- 週の関与時間を実際に確保できているか
「質問が出ない」の原因の半分は、この6項目のどれかにある。