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人材育成制度 全体設計書

  • 文書種別: 社内制度設計書
  • バージョン: 1.0
  • 作成日: 2026-07-29
  • 元資料: 社内での方針協議
  • ステータス: 運用開始前ドラフト(要レビュー)

#0. 前提条件

本設計書は、以下の前提で作成している。前提が異なる場合は、該当箇所を読み替えること。

項目前提
会社規模10名以下の小規模組織
主な育成対象新しく入った社員(新卒・中途を問わない)
教育担当専任なし。経営者およびリーダーが本業と兼務で担当する
業務マニュアルほぼ未整備。制度と並行して整備する
社風自由度が高い。ルールより裁量が先行してきた

小規模組織であるため、制度の作り込みよりも「回り続けること」を優先する。運用負荷が高い仕組みは、担当者が忙しくなった瞬間に止まる。本設計は、教育担当が週に使う時間を明確に上限化している。


#1. この制度が解決したい課題

本制度が解決したいのは、次の5つである。いずれも、これまでの誰かの働き方に問題があったという話ではない。 人数が少ないうちは仕組みがなくても回るが、人が増える段階で必ず表面化する構造上の課題である。

#課題放置した場合に起きること
1育成が場当たり的で、到達水準が人によってばらつく「できる人」しか育たない。教える側の負担が属人化する
2何でも人に聞きに来るため、教育コストが下がらない教える側の時間が奪われ続け、本人も考える力がつかない
3進捗が見えず、遅れの発見が遅い月末になって初めて未達が発覚する
4休暇・出社困難などのイレギュラー時の調整方法が決まっていない都度その場対応となり、不公平感と混乱が生まれる
5自社の文化やルールが言語化されていない「自由」が「何をしてもいい」と誤解され、権利主張だけが残る

#2. 制度の全体像

本制度は、育成の3段階と、それを支える4つの土台で構成する。全体の拠り所となる考え方は、フォロワーシップである。

【前提となる考え方】
  フォロワーシップ         どこまでを会社が教え、どこからを本人の責任とするか
                          → 仕上がりをLv.1〜4で定義し、会社の保証範囲をLv.3までとする
                             (05_フォロワーシップと教育範囲の基準.md)

【育成の3段階】
  第1段階 ティーチング     入社〜3ヶ月     教える     → 一定水準まで引き上げる(Lv.1)
  第2段階 コーチング       3〜6ヶ月目      引き出す   → 自律的に動ける(Lv.3)
  第3段階 メンタリング     6ヶ月目〜継続   支える     → AI併用で自走を維持する

【4つの土台】(全段階を通じて常時運用)
  土台A 報告運用           予定・現状・完了の3軸で進捗を可視化する
  土台B AIファースト原則   まずAIに聞く。人には意思決定だけを持ち込む
  土台C 行動規範           権利と義務のバランスを言語化し、文化を定着させる
  土台D なりたい姿         本人が「どうなりたいか」を提示し、それを起点に自ら頑張る

【続けるための補助】習慣化カード(47・48)
  1日1スタンプ/休んだ日は途切れない/評価には使わない

3段階は「教える → 引き出す → 支える」と、教育担当の関与度が段階的に下がっていく設計である。第1段階で最も時間を使い、第3段階では最も時間を使わない。これが成立しないと、教育コストは永久に下がらない。

#2-1. 設計の中核となる考え方

本制度は、次の2点を土台にしている。先に 05_フォロワーシップと教育範囲の基準.md を読むこと。

考え方内容
マインドサイクル人は「受信 → 解釈 → 判断 → 行動 → 結果 → 内省」を繰り返している。育成とは、教育担当が代行していた工程を1つずつ本人に返していくことである
仕上がりレベル到達度をLv.0〜4で定義する。会社が保証するのはLv.3まで。Lv.4(価値創出)は本人の領域であり、70_なりたい姿の宣言と目標運用.md がその橋になる

各段階が、マインドサイクルのどこに介入するかは次のとおりである。

段階介入する工程目標レベル
ティーチング④ 行動Lv.1(指示遂行)
コーチング② 解釈・③ 判断Lv.3(目的遂行)
メンタリング⑥ 内省Lv.3の安定 → Lv.4へ

#3. 育成の3段階

#3-1. 第1段階:ティーチング(入社〜3ヶ月)

項目内容
目的業務遂行に必要な一定の水準(Lv.1)までスキルを引き上げる
方法マニュアルに沿った基礎教育。手順を示し、やらせ、確認する
教育担当の関与週2〜3時間(初月は週4〜5時間)
進め方の原則「見せる → 一緒にやる → やらせて見る → 任せる」の4ステップ
到達ゴール定型業務を、マニュアルを見ながら独力で完了できる
並行して行うことその人に合う教え方を見つける15_見極めガイド_最初の3ヶ月.md
詳細10_ティーチング_カリキュラム.md

この段階では、プロセスより先に「型」から入ってもらう。自分なりのやり方を扱うのは、コーチング段階からである。

同時に、この3ヶ月で本人の傾向をつかむ。情報の受け取り方、詰まったときの反応、指摘の受け止め方には人によって違いがあり、これを早くつかめれば教え方を変えられる。つかまないまま3ヶ月が過ぎると、「本人の問題」として片付けられてしまう。これは人物の分類ではなく、教え方を変えるために行う(詳細は 15_見極めガイド_最初の3ヶ月.md)。

#3-2. 第2段階:コーチング(3〜6ヶ月目)

項目内容
目的自分で気づき、自律的かつ有機的に動ける状態にする
方法週半日を確保し、問いかけ中心の対話を行う。答えを与えない
期間2〜3ヶ月(本人の状態により調整可)
教育担当の関与週半日(3〜4時間)を上限とする
評価の視点結果だけでなくプロセスを重視する
到達ゴールイレギュラーな場面でも、自分で判断の候補を出せる
詳細20_コーチング_運用ガイド.md

「週半日」は本人の作業時間ではなく、教育担当が本人のために空ける時間である。この時間を守れないなら、コーチング開始を遅らせるほうがよい。中途半端な着手は、本人に「放置された」印象だけを残す。

#3-3. 第3段階:メンタリング・フォローアップ(6ヶ月目〜)

項目内容
目的自走状態を維持し、支援が必要なタイミングだけを拾う
方法日常のフォローの約半分をAIで代替する
教育担当の関与隔週30分の1on1+随時のエスカレーション対応のみ
到達ゴール人への確認が「意思決定事項のみ」に絞られている
詳細30_AIメンタリング_運用ルール.md

#4. 3つの土台

#4-1. 土台A:報告運用(予定・現状・完了)

進捗は、次の3軸で必ず報告させる。1軸でも欠けると管理は成立しない。

意味報告タイミング
予定今月やらなければならない業務量と、その配分月初
現状実際の進行状況。予定に対する差分週次
完了終わったこと。次に渡せる状態か都度・週次

この3軸をカレンダー上で可視化することで、本人が自分の担当範囲の全体像を俯瞰できる状態をつくる。視座を高くするのは、説教ではなく可視化によって行う。

詳細は 40_報告運用ルール.md、様式は templates/01_週次報告シート.md および templates/04_月次カレンダー運用シート.md を参照。

#4-2. 土台B:AIファースト原則

「わからないこと」を、いきなり人に聞かせない。次の順序を必ず通す。

① 自分で調べる(マニュアル・過去資料)
        ↓ 解決しない
② AIに聞く(前提と試したことを添えて)
        ↓ 解決しない・または判断が必要
③ 人に聞く(AIの回答と、自分の考えをセットで持ち込む)

③に来るときは、「自分はこう考えた」を添えてもらう。添えられていない場合は、「その部分だけ考えてから、もう一度来てください」と、何を足せばよいかを具体的に伝える。目的は突き放すことではなく、考える習慣を身につけてもらうことにある。冷たく突き返さない。

一方で、次の3種は最初から人に聞いてよい(AIを経由させない)。ここを曖昧にすると事故が起きる。

  • 顧客・金銭・契約に関わる判断
  • 会社としての方針・優先順位の決定
  • 本人の心身の不調、人間関係の悩み

詳細は 30_AIメンタリング_運用ルール.md

#4-3. 土台C:行動規範(権利と義務)

自由な社風を維持するために、権利と義務がセットであることを明文化する。

自由とは、「何をしてもよい」ことではなく、「果たすべきことを果たした人が、やり方を選べる」状態を指す。

これまで経験と暗黙の了解に頼ってきた部分を言語化し、全員が参照できる共通の型として共有する。詳細は 50_行動規範_権利と義務.md

#4-4. 土台D:なりたい姿の宣言

会社が用意したゴール(Lv.1〜3)だけで走らせると、頑張る理由を会社が供給し続ける必要がある。小規模組織には、その人手がない。

そこで、本人に「自分がどうなりたいか」を提示してもらい、それを起点に動いてもらう。

仕組み内容
入社1週目本人が「なりたい姿」を書く(1年後・3年後・その先)
入社2週目教育担当と読み合わせ、会社の期待と重ねる(重なる/本人だけ/会社だけ の3領域)
毎月月初の予定づくりで、なりたい姿に近づく項目を1つだけ入れる
3ヶ月ごと見直す。変わってよい

「特にない」も許容する。 無理に書かせると、その場しのぎの目標が生まれ、対話が空回りする。また、この宣言を人事評価に使わない。評価されると分かった瞬間、会社が望む答えを書くようになり、燃料としての機能が消える。

詳細は 70_なりたい姿の宣言と目標運用.md、様式は templates/08_なりたい姿シート.md


#5. 全体スケジュール(標準モデル)

時期段階本人の状態教育担当の週あたり時間主な確認事項
1ヶ月目ティーチング教わりながらやる4〜5時間出退勤・報告習慣・基本ルールの定着
2ヶ月目ティーチング見ながら独力でやる3時間定型業務の手順遵守
3ヶ月目ティーチング独力で完了できる2時間卒業判定(下記6章)
4ヶ月目コーチング自分で考える週半日プロセスの言語化
5ヶ月目コーチング自分で選ぶ週半日判断候補を複数出せるか
6ヶ月目コーチング自分で決めて動く週半日卒業判定(下記6章)
7ヶ月目〜メンタリング自走する隔週30分エスカレーションの質

期間は目安である。ただし、延長する場合は「なぜ延ばすのか」「延長中に何をクリアすれば次に進むのか」を本人に必ず伝えること。理由なき延長は、本人の不信につながる。


#6. 段階の卒業判定基準

各段階の終了時に、教育担当が下表で判定する。すべて「はい」でなければ次段階に進めない。

#6-1. ティーチング卒業判定(3ヶ月目)

  • 担当する定型業務を、マニュアルを見ながら独力で完了できる
  • 予定・現状・完了の3軸報告を、催促なしで提出している
  • 質問時に「自分で調べたこと・AIに聞いたこと」を添えられている
  • 就業ルール(勤怠・連絡・締切)を守れている
  • 自分がわからないことを、わからないと言える

最後の1項目は軽視されがちだが、最も重要である。ただしこれは本人の性格を問う項目ではなく、「わからないと言える関係ができているか」を確認する項目である。 言い出しにくい状態のまま次の段階に進むと、本人が一人で抱え込むことになる。満たせていない場合、まず教育担当側の接し方を点検すること。

#6-2. コーチング卒業判定(6ヶ月目)

  • 想定外の場面で、自分なりの対応案を2つ以上出せる
  • 判断の理由を、結果ではなくプロセスで説明できる
  • 月の業務量を自分で俯瞰し、前倒し・後回しの判断ができる
  • 人へのエスカレーションが、意思決定事項に絞られている
  • 自分の担当範囲外の動きにも関心を持ち、必要な連携ができる

#7. 運用体制と役割

小規模組織のため、役割は最小限に絞る。

役割担当責任範囲
制度オーナー経営者制度の維持・改定、卒業判定の最終承認
教育担当リーダーまたは経営者日々の指導、週次の面談、報告の受領
本人育成対象者報告の提出、AIファースト原則の遵守、学習の記録

教育担当は1名に固定する。 複数人が交代で見ると、言うことが変わり、本人が混乱する。相談相手を増やすのは、コーチング段階に入ってからでよい。


#8. 導入ステップ(この制度の始め方)

制度は、次の順序で立ち上げる。全部を同時に始めない。

ステップ実施内容目安期間関連文書
STEP 0経営者と教育担当で、仕上がりの定義と教育範囲を確認する2〜3時間05_フォロワーシップと教育範囲の基準.md
STEP 1行動規範を言語化し、全社員で読み合わせる1週間50_行動規範_権利と義務.md
STEP 2報告運用(3軸)を全社員で開始する即日〜40_報告運用ルール.md
STEP 3AIファースト原則を全社員で開始する即日〜30_AIメンタリング_運用ルール.md
STEP 4なりたい姿シートを全社員で記入・読み合わせする2週間70_なりたい姿の宣言と目標運用.md
STEP 5業務マニュアルの骨組みを作る(まず3本)2〜4週間60_マニュアル整備の進め方.md
STEP 6次の入社者からティーチングと見極めを正式運用する入社日〜10_15_

STEP 1〜4は既存社員も対象である。新人だけにルールを課し、既存社員が守らない状態は、制度そのものを無効化する。文化の定着は、先にいる人から始まる。

STEP 0を飛ばさない。 「どこまでを会社が教え、どこからを本人の責任とするか」を決めないまま走り出すと、教育担当が際限なく面倒を見ることになるか、逆に突然突き放すことになる。


#9. イレギュラー対応の方針

休暇・体調不良・出社困難など、計画通りに進まない場面は必ず発生する。都度判断ではなく、事前に決めた方法で処理する。

状況対応の原則
事前にわかっている休暇前週までに申告し、その週の予定を組み替えて提出する
当日の体調不良・急な事情始業前に連絡。その日の予定は教育担当が引き取るか、翌日以降に再配置する
出社困難だが業務は可能基本は出社とするが、やむを得ない場合は自宅作業を認める(下記9-1章)
育成段階の一時中断2週間以上の中断は、段階の期間を中断日数分だけ後ろ倒しする

重要なのは、「調整してよい」と明示することである。調整できないと思い込むと、無理をするか、黙って遅れる。どちらも組織にとって損失となる。

様式は templates/05_イレギュラー申請シート.md を参照。

#9-1. 自宅作業(在宅)の考え方

基本は出社とする。 10名以下の組織では、すれ違いざまの確認、詰まりが見えること、雑談から出る情報といった要素で業務が回っている部分が大きい。

ただし、子どもの急な事情など、やむを得ない場合は自宅作業を認める。 遠慮させない。

自宅作業が成立するには、次の両方が必要である。

前提内容
① 自分のリソースを自分で処理できるLv.2(自律遂行)以上。在宅では誰も声をかけない。詰まりを自分で気づき、自分から出せることが必要
② 今すぐ進めるべき業務が明確にある納期が迫っている等。「休むと間に合わないものがある」から場所を変えて進める、という手段である

前提が揃わない場合は、無理に働かず休む。 急ぎの仕事がないのに看病しながら中途半端に働くと、どちらも中途半端になる。休んで予定を組み替えるほうが、結果的に速い。

育成段階による扱いは次のとおり。

段階自宅作業理由
ティーチング期原則不可(出社できないなら休む「見せる・一緒にやる」が成立しない
コーチング期条件付きで可前提①のチェックリストで教育担当が判断
メンタリング期・既存社員前提②を満たせば本人判断に任せる

申請したことを評価上不利に扱わない。 不利に扱うと、無理をして出社するか、黙って休むようになる。

詳細は 55_自宅作業(在宅)の考え方とルール.md


#10. 制度の見直し

見直しタイミング実施内容
育成対象者が1名卒業するたび実際にかかった時間と、つまずいた箇所を記録し、カリキュラムに反映する
半年に1回制度全体の運用状況を確認し、形骸化した項目を削除する

項目を増やすより、機能していない項目を削ることを優先する。 小規模組織では、守れないルールが1つあるだけで、他のルールまで守られなくなる。


#11. 関連文書一覧

#制度文書

文書内容読む順
05_フォロワーシップと教育範囲の基準.md最初に読む。 仕上がりの定義、マインドサイクル、教育の範囲と打ち切り基準1
00_人材育成制度_全体設計書.md本文書。制度の全体像2
10_ティーチング_カリキュラム.md入社〜3ヶ月の教育内容と週次スケジュール3
15_見極めガイド_最初の3ヶ月.mdその人に合う教え方を見つける(人物の分類ではない)4
20_コーチング_運用ガイド.md週半日の面談の進め方、問いかけ集5
30_AIメンタリング_運用ルール.mdAIファースト原則、エスカレーション基準6
40_報告運用ルール.md予定・現状・完了の3軸報告の運用7
45_面談・報告スケジュール.md面談の曜日・時刻・頻度、段階別の時間割、年間カレンダー8
47_習慣化カード_スタンプの運用ルール.md報告を習慣にする補助の仕組み。休んでも途切れない設計9
48_習慣化の心理学_背景となる考え方.md7つの習慣ほか、習慣化の8つの教訓と設計への反映10
50_行動規範_権利と義務.md自社文化の言語化、守るべきルール11
55_自宅作業(在宅)の考え方とルール.md基本は出社とする理由、自宅作業の2つの前提、段階別の可否12
60_マニュアル整備の進め方.md未整備のマニュアルを作る手順13
70_なりたい姿の宣言と目標運用.md本人の動機を起点に自走させる仕組み14
91_勤怠・申請の運用(マネーフォワード).md打刻・休暇申請・経費精算のワークフロー(自社固有随時

| 80_横展開・外販に向けた設計方針.md | 自社実証 → 商品化の判断条件(事業検討メモ) | 15 |

| 90_自社設定シート.md | 会社固有情報の集約先(会社名・業務名・曜日時刻など) | 記入用 |

制度文書に自社固有の情報を書き足さないこと。 会社名・業務名・曜日時刻はすべて 90_自社設定シート.md に集約してあり、この分離が他社展開時の差し替えを1ファイルで済ませる構造になっている。

#様式(templates/)

様式誰が使うかいつ使うか
01_週次報告シート.md本人毎週
02_1on1面談シート.md教育担当週1回/隔週1回
03_ティーチング進捗チェックリスト.md教育担当入社〜3ヶ月
04_月次カレンダー運用シート.md本人月初・月末
05_イレギュラー申請シート.md本人休暇・体調不良・出社困難時
06_見極め観察シート.md教育担当入社〜3ヶ月
07_手順書テンプレート.md本人(教わった人が書く)業務を教わった当日
08_なりたい姿シート.md本人入社時・3ヶ月ごと
09_習慣化カード.md本人毎日(印刷して机に置く)