第1段階:ティーチング カリキュラム(入社〜3ヶ月)
#1. この段階の考え方
ティーチングは「教える」段階である。まずは型のとおりにやってもらう。 一定水準まで引き上げることだけに集中する。
「なぜこうするのか」を本人が納得しないまま進むことを恐れなくてよい。理由の理解は、コーチング段階で扱う。この段階で理由を延々と説明すると、時間だけがかかり、手が動くようにならない。
ただし、「これは決まりだから今は型どおりにやってほしい。理由は3ヶ月目以降に一緒に考える」とは伝える。 説明しないことと、説明しない理由すら伝えないことは違う。
#2. 教え方の4ステップ
すべての業務を、次の4ステップで教える。ステップを飛ばさない。
| ステップ | やること | 教育担当 | 本人 |
|---|---|---|---|
| ① 見せる | 実際にやって見せる。手順書を見ながら実演する | 実演する | 見て、メモを取る |
| ② 一緒にやる | 隣で口頭で指示しながらやらせる | 逐次指示する | 指示どおり手を動かす |
| ③ やらせて見る | 本人にやらせ、黙って見る。終わってから指摘する | 見守る・後で指摘 | 独力でやる |
| ④ 任せる | 任せて、成果物だけ確認する | 結果を確認する | 独力で完了させる |
②から④へ飛ばさない。 「一度説明したからできるはず」は、教える側の願望である。③を挟まないと、どこでつまずいているかが永久に見えない。
各業務が今どのステップにあるかは、templates/03_ティーチング進捗チェックリスト.md で管理する。
#3. 3ヶ月の全体設計
| 時期 | テーマ | 到達状態 | 教育担当の関与 |
|---|---|---|---|
| 1週目 | 会社を知る・環境を整える | 出社し、業務を開始できる | 毎日1時間 |
| 2〜4週目 | 基本の型を身につける | ①②中心。指示があれば動ける | 週4〜5時間 |
| 2ヶ月目 | 手順書を見ながら独力でやる | ③中心。つまずきを自覚できる | 週3時間 |
| 3ヶ月目 | 任せられる範囲を広げる | ④中心。定型業務は独力で完了 | 週2時間 |
#4. 週次カリキュラム
#4-1. 1週目:会社を知る・環境を整える
初週は業務スキルではなく、土台の3つ(報告・AIファースト・行動規範)を先に入れる。ここを後回しにすると、後から矯正するコストのほうが高くつく。
| Day | 内容 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 1日目 | 会社の事業・お客様・自分の役割の説明/行動規範の読み合わせ | 本人の言葉で「この会社は何をしている会社か」を説明させる |
| 2日目 | 業務環境のセットアップ(PC・アカウント・ツール・保存場所ルール) | 実際にファイルを1つ作らせ、正しい場所に保存させる |
| 3日目 | 報告運用の説明(予定・現状・完了の3軸)/報告シートの使い方 | 当日分の報告を実際に書かせる |
| 4日目 | AIファースト原則の説明/AIへの質問の仕方を実演 | 実際の疑問を1つ、AIに聞かせて結果を報告させる |
| 5日目 | 1週目の振り返り/担当業務の全体像の説明 | 1週間で分かったこと・分からないことを3つずつ挙げさせる |
1日目の行動規範の読み合わせは、必ず対面で行う。 文書を渡して「読んでおいて」で済ませると、定着しない。
#4-2. 2〜4週目:基本の型を身につける
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 進め方 | 担当業務を1つずつ、4ステップの①②を中心に教える |
| 1日の流れ | 朝:その日の予定を口頭で確認 → 業務 → 夕方:完了報告(10分) |
| 週次面談 | 週1回30分。今週やったこと・つまずいたこと・来週やることを確認 |
| 到達目標 | 担当業務の一覧が本人の頭に入っており、指示があれば動ける |
この時期に、教育担当は「教えた業務」を必ず記録する。記録がないと、3ヶ月目に「これは教えたはず/教わっていない」の水掛け論になる。記録は templates/03_ティーチング進捗チェックリスト.md に残す。
#4-3. 2ヶ月目:手順書を見ながら独力でやる
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 進め方 | 4ステップの③に移行。やらせて、黙って見る |
| 重要な原則 | 途中で口を挟まない。 明らかな失敗が起きる直前まで待つ |
| 例外 | 顧客に影響が出る/金銭が動く/データが消えるものは、直前で止める |
| 夕方の報告 | 完了報告に加え、「詰まったところ」を1つ以上挙げさせる |
| 週次面談 | 週1回30分。詰まりの傾向を見る |
「詰まったところがありません」という報告が続く場合は、難易度が低すぎるか、言い出しにくい状態になっているかのどちらかである。責める前に、どちらなのかを確認する。
#4-4. 3ヶ月目:任せられる範囲を広げる
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 進め方 | 4ステップの④に移行。成果物だけを確認する |
| 報告の変化 | 日次の口頭確認をやめ、週次報告シートに集約する |
| 追加テーマ | 月の業務量を自分で俯瞰させる(予定の作成を自分でやらせる) |
| 月末 | 卒業判定を実施(00_人材育成制度_全体設計書.md 6-1章) |
#5. 教える内容の洗い出し方
マニュアルが未整備の段階では、まず「教えるべきことのリスト」を作る。完璧なマニュアルを先に作ろうとすると、いつまでも着手できない。
手順は次のとおり。
- 教育担当が、自分の1ヶ月の業務をすべて書き出す(30分・箇条書きでよい)
- その中から、新人に渡す業務に印をつける
- 印をつけた業務を、次の3分類に振り分ける
| 分類 | 定義 | ティーチングでの扱い |
|---|---|---|
| 定型業務 | 毎回同じ手順で完了する | 最優先で教える。 マニュアル化も最優先 |
| 半定型業務 | 手順はあるが、状況で判断が入る | 2ヶ月目以降に教える。判断部分はコーチングで扱う |
| 非定型業務 | 都度考える必要がある | この段階では教えない |
- 定型業務から順に、教えながらマニュアルを作る(詳細は
60_マニュアル整備の進め方.md)
マニュアルは本人に書かせる。 教わった人が書いたほうが、次の人にとって分かりやすい。教育担当は添削だけを行う。これで教育担当の負担が下がり、本人の理解度も測れる。
#6. つまずきやすい場面と、教える側の対応
| 起きやすい場面 | 背景にあること | 教える側の対応 |
|---|---|---|
| 同じことを何度か聞かれる | メモの取り方が身についていない/見返す習慣がない | メモの取り方から教える。 同じ質問には「前回どうメモしたか」を一緒に確認する |
| 質問が出てこない(実は詰まっている) | 聞いてよいか分からない/迷惑をかけたくない | 「詰まらないほうが普通ではない」と伝え、日次で1件挙げる枠を用意する |
| 報告が出てこない | 何のための報告か腹落ちしていない | 催促ではなく、報告があると本人にどう役立つかを具体的に伝える |
| 自分のやり方で進めたくなる | 前職での経験や、自分なりの工夫がある | 「3ヶ月は型どおり。4ヶ月目から一緒に改善する」と期限を切って伝える |
| 進捗が遅れている | 業務量の見積もりがまだ難しい | 責めずに、見積もりの立て方を一緒にやり直す |
中途入社の方への配慮:前職のやり方を持っている人ほど、型に合わせることへの戸惑いが大きい。「あなたのやり方が悪いのではなく、まず当社の型を知っていただく必要がある」と、人ではなく手順の話であることを明確に伝える。3ヶ月後には、その経験を活かしてもらう場面が来る。
#7. 教育担当のためのチェックリスト(週次)
毎週、教育担当が自分で確認する。
- 今週、本人と話す時間を実際に確保できたか
- 教えた業務を記録に残したか
- 本人から報告が出てきたか(催促していないか)
- 4ステップのどこにいるかを把握しているか
- 詰まりの報告が上がってきているか
- 自分が答えを言いすぎていないか(2ヶ月目以降)
#8. 卒業判定
3ヶ月目末に、00_人材育成制度_全体設計書.md 6-1章の判定基準で確認する。
判定は本人の同席のもとで行う。 一方的に「合格/不合格」を通知するのではなく、各項目について本人の自己評価と教育担当の評価を突き合わせる。ずれている項目こそ、次段階で扱うべきテーマになる。
判定の結果は3つ。
| 結果 | 対応 |
|---|---|
| 合格 | コーチング段階へ移行する |
| 一部未達 | 未達項目を明示し、1ヶ月延長する。何をクリアすれば進めるかを書面で渡す |
| 大幅未達 | カリキュラム側の問題を先に疑う。教える量・順序・時間配分を見直す |
3人目までは、到達しない項目が出たらまず制度側を見直すこと。小規模組織では、育成される側の問題より、育成する側の設計不足であることのほうが多い。